これは、私の書いた『傷跡』という小説です。
越後文学会という同人誌の最新号に発表しました。

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「た、たぶん、人違いだと思いますが…」
と言い残し、繁は足早に店を出ていった。
しかし、嘘をついたことで後悔していた。


繁は小さな会社を経営していた。一日の大半を車で移動し、営業に費やしていた。
日々時間に追われている繁は、床屋に行く時間を作るにも苦労した。
こんなこともあり、営業の合間に少しの時間ができると、通りがかりの見知らぬ床屋に入り、髪を切るのが常だった。


ある日、繁は生まれ故郷の町へ営業に向った。
二時間を予定していた商談だったが、わずか三十分で終わってしまった。
時間の空いた繁は、二ヶ月近く切っていない髪を気にし、床屋を探した。
「そうだ、子供の頃行っていた、あの床屋!この辺りだったよなぁ…」
と繁は心の中で呟いた。
その床屋は、昔のままの場所で細々と営業している風だった。
この床屋に最後に来たのは、この町から引っ越した年だから三歳だった。
繁は三十年ぶりに床屋のドアを開けた。


「いらっしゃいませ」
愛想の良い、初老の店主が笑顔で迎えてくれた。
平日の午後二時、お客さんは誰もいない。

「さあ、どうぞこちらへ」
店主は、三つある椅子の真ん中へ繁を案内した。

「お客さん、初めてのようですね」

繁は一瞬躊躇したが、三十年前まで、この床屋に来ていたことを話すのが面倒になり、

「えっ、まぁ…」
と答えた。

「どんな髪型にしましょうか?」

「全体的に短くしてください」

「かしこまりました」

店主は、繁の髪に櫛を丁寧に通した。

「お客さん、営業をやっている方ですね」

「ええ、どうして分かったんですか?」

「何十年も床屋をやっていると、顔つきや髪型でだいたい分かるんですよ」

お互い手探りの会話。
どこかぎこちない。
どうやら店主は、まったく繁のことに気づいていない。
無理もない。この前この床屋に来たのは、三十年前なのだから。


店主は、前髪を切り始め、丁寧に長さを揃えた。
そして側頭部の髪に櫛を通し、耳の形に合わせて、ゆっくりと鋏を動かした。

「最近は不景気で、うちもさっぱりですよ。お客さんのお仕事はどうですか?」

店主は、繁の緊張感を解きほぐそうと、様々な会話を投げかけてきた。
側頭部の髪を切り終わり、後頭部の襟首の髪に櫛を入れ、鋏を動かした途端、店主の手が数秒間止まったのを繁は察知した。
それからというもの店主は急に無口になった。


 淡々と時は流れ、散髪は終わった。
繁がお金を払い、店を出ようとした瞬間、

「あの、お客さん、三十年近く前、この辺りに住んでいませんでしたか?」

と店主が繁を呼び止めた。

「実はその頃、小さな男の子の髪を切ったことがありました。襟首を剃刀で剃っていた時、そのお子さんがこそばゆくなったのか、首を曲げた勢いで、剃刀で襟首を切ってしまったのです。お客さん、襟首に傷跡がありました。もしかしたらと思いまして…」

自分では見ることのできない襟首の傷跡。
それ故、繁は気にしたことはなかったが、床屋で切った傷跡だと母に聞かされていたことを思い出した。

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いかがでしたか?
なかなか、評判はいいので嬉しいです。


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